ケーススタディ

マリンピア沖洲人工海浜での取組み

マリンピア沖洲人工海浜は、埋め立てられて消失するルイスハンミョウの生息地の代償として作られました。現在、ルイスハンミョウが生息できる環境にあるものの、その環境をいかに維持するか、できあがった海浜を「地域の財産」として、地域の人が今後どのように利用するのかが大きな課題となっていました。

そこで、当NPOと徳島県港湾空港企画課(当時)が恊働でシンポジウムやワークショップなどを行い、地域の人達と一緒にその魅力を発信し、環境保全に向けた取組みをはじめました。

これらの取組みを通じて、ワークショップ参加者を中心とする「沖洲海浜楽しむ会」が結成されました。当初は本会も活動の運営に協力しましたが、現在は自立した団体として精力的に活動を展開しています。

地域住民と恊働してのルールづくりから、その後地域住民が独自の力を発揮して自立した会としての活動にいたるまでの様子をご紹介します。
(2009年)

マリンピア沖洲第2期事業

マリンピア沖洲第2期事業は、平成五年に竣工した竣工した第1期事業の周辺に四国横断自動車道の本選およびインターチェンジの用地の他、緑地や人工海浜などを整備するものです。

担当 : 渡辺 雅子

NPO法人 徳島保全生物学研究会会員
マリンピア沖洲ワークショップ事務局・環境教育を担当
博士(理学)

シンポジウムの開催(2009年5月)

民官学恊働による利用ルールの提案に向けて始動。
地域にかかわるさまざまな立場の人々に、マリンピア沖洲人工海浜の現状をまず知っていただき、検討の場をつくることを呼びかけました。

ワークショップの開催(2009年11月〜2010年1月)

計3回のワークショップと1回の部会を開催しました。
またワークショップ開催に先立ち関係者分析も実施(2009年6〜8月)しました。

第1回ワークショップ(2009年11月8日)

人工海浜の利用方法や規制についての意見を交換・抽出しました。
ルイスハンミョウなどの生物に影響の少ない利用方法は、違法駐車がゴミ問題を心配する意見が出されました。

ルイスハンミョウ

本州、四国、九州に分布し、海に注ぐ河口の河川域や海岸砂浜に生息。
河川改修、堤防工事など河口域における砂地の現象、海浜埋め立てによる生息地の急激な現象のため、国内ではわずかな産地しか知られていません。
徳島県では、吉野川河口域から勝浦川河口域まで生息していましたが、現在では沖洲海岸と吉野川河口域が四国で唯一の産地となっています。
全国的に見ても最も個体数の多い生息地となっており、きわめて貴重な場所です。

第2回ワークショップ(2009年12月11日)

参加者のみなさんで現地を視察した後、規制内容についての意見を交換・抽出しました。
人工海浜の利用に関し、完全に人の立入を禁止し、ルイスハンミョウンの生息地として保全を図るべきであると言う意見がある一方で、人と自然の触れ合いの場を確保するという観点から、完全開放するべきであるという意見まで大きく別れました。
ルール作りの合意を図る上で、人工海浜整備の3つの目的が改めて確認されました。

人工海浜整備の3つの目的

1.海洋保全施設としての防災機能
2.人の親水場所としての代替地機能
3.ルイスハンミョウなどの生息環境を整える機能

ルール素案作成(2010年1月11日)

ワークショップ参加者有志と専門家でルール素案づくりを行ないました。
下記の3項目について参加者の意見が一致し、次回のワークショップでこの素案を検討することに。

素案の検討

1.立ち入り禁止区域の設定
2.規制行為の設定
3.調査項目の提案

第3回ワークショップ(2010年1月25日)

素案で提案された「防災」「親水」「保全」の3つの海浜整備の目的を再確認。
そして、ルイスハンミョウの幼虫生育地域への立ち入りを制限する規制項目を決定しました。

侵入防止柵の設置(2010年3月13日)

ルイスハンミョウの幼虫生息域を保全するため、地域住民の方たちにも参加をいただき、幼虫の生息域に不用意に立ち入らないための侵入防止柵を設置しました。

ワークショップを振り返って

地域の人の海浜へのいろいろな思いが混ざり合い、場が熱くなることもありましたが「ルイスハンミョウと人が共存する」ために知恵を出し合ってルールを作るだけでなく、幼虫の保護柵を設置することができました。
海浜の保全にとって、時期的にも内容的にも不可欠な事業でした。

ニュースレターの発行

ニュースレターを発行し、地域住民へワークショップの経過や決定事項を報告しました。

沖洲海浜を楽しむ会の設立

2010年4月、フォーラムやワークショップをきっかけに、大学生や地域の方が中心となって「沖洲海浜を楽しむ会」が設立されました。
この会のモットーは「恊働で守る!楽しむ!広める!」。
個々のメンバーの特技を発掘し、それを事業に活かし、楽しく活動しています。

環境教育

2009年より地域の小学校と連携し、沖洲海浜周辺の環境や生物を理解し、地域への愛着を育てることを目標とした環境学習に取組んでいます。
2010年には野外活動4回と室内活動5回を実施し、学んだ内容をグループ毎に発表する機会を設けました。
年間を通した学習を行なうことにより、感動する心の発達や探求する意欲・情報整理力・課題を見出す力・解決策を考える力を育む機会となりました。
初年度は当NPOの自主事業として実現、翌年以降は継続事業として活動を支援してくれる外部資金を獲得し、県や小学校と恊働で実施しています。

環境教育について

地域の小学生に、地域に希少な生物がいることを知ってもらうだけでなく、自分の街の海浜の変化の理由と歴史を知ってもらい、今後どんな海浜にしていきたのかを考えてもらいたいと思い、担任の先生方と相談をしながら毎年プログラムを組んで実施しました。
毎年目を輝かせながら学習を進める子ども達の姿がとても印象的で、私達の活動の原動力となっています。

その後の地域での取組み

「沖洲海浜を楽しむ会」の自立的な活動

2010年度は当会が「沖洲海浜を楽しむ会」の運営に協力していましたが、現在ではイベント運営、地域連携、資金調達など、独自の力を発揮し、自立した会として活動しています。
海浜のファンを増やすために、毎月のイベントの実施や年1回のシンポジウムを通して海浜に魅力を伝えるだけでなく、地域内外の方と情報交換できる場を設けています。

活動内容

毎年4〜10月に海浜で月1回程度のイベントを実施
・地域小学校との連携による環境教育
・ルイスハンミョウに関する調査
・海浜環境保全に関連するシンポジウムの実施など

平成23年度土木学会環境省受賞

県と沖洲海浜を楽しむ会の人口増製磁業及びその後の保全活動」に対し、土木学会環境省が授与されました。土木技術・システム開発を運用し、環境の保全・想像に貢献した画期的な業績、およびプロジェクトとして高い評価を得ました。

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